[質問]
○前原誠司 民主党の前原誠司です。私は、民主党・無所属クラブを代表して、平成26年度補正予算の財政演説に対して質問いたします。
まず、いわゆる「イスラム国」を自称するテロ集団ISIL(アイシル)への対応と中東情勢について伺います。 1月20日、ISILによって拘束された湯川遥菜(ゆかわはるな)さんと後藤健二(ごとうけんじ)さんの殺害予告が、インターネット動画配信でなされ、その後、湯川さんが殺害された趣旨の動画が流れました。事実だとすれば許しがたい暴挙であり、強い憤りを禁じえません。政府が今、どのような交渉をしているかを問う時期ではありません。人命最優先、そしてテロには屈しない、日本国としての毅然とした態度を示しながら、政府にはあらゆる努力を行った上で、後藤さんの救出に全力を挙げることを強く求めます。もとより、人の命がかかわる問題に与野党の違いはありません。政府の懸命の努力に対して、できる限りのサポートを致します。ただし野党第一党として、日本国民の生命と安全を守るため、今後のために、どうしても伺わなければならない点について伺います。 湯川さんが拘束されたのは昨年8月、また11月にはISIL側から後藤さんのご家族に、約20億円の身代金を要求するメールが届いたと言われています。他国における自国民保護は国家の大切な仕事の一つであります。湯川さんの拘束が発覚した後、現地対策本部を設置したと承知をしておりますが、他に、拘束されている日本人はいないのでしょうか? 同時に、これまでの数か月、お二人の解放に向けて政府は何を行ってきたのか。お答え下さい【問1】。 安倍総理はエジプトで、「ISILと闘う周辺各国に総額で2億ドル支援する」と発表し、これが結果として犯行声明に引用されました。イラクのアルカイダを起源とし、現在ある国境を無視し、テロ・殺戮・略奪を繰り返すことで、新たな国家を建設しようとするISILを、到底認めることはあり得ません。しかし、現に二人の日本人が拘束され、パリではイスラム過激派による許し難い悲惨なテロが新年早々にあったばかりで、ISILと対峙する国々は国内治安レベルを引き上げて警戒を強めている状況です。そのタイミングで、ISILと闘う周辺各国に対して支援表明を行うことのリスクについて、どのように想定していたのか。総理に伺います【問2】。
また、戦闘には加わっていない避難民に対する人道支援である日本の中東支援を、テロ集団はねじ曲げて犯行の理由としていますが、テロ集団の意図をどう分析をしているのかについても、お答え下さい【問3】。
私は、安倍総理の積極的な外遊を否定するものではありません。ただ今回、残念だと思ったことを率直にお伝えします。今年、6434名の尊い命が失われた阪神・淡路大震災から20年の節目を迎えました。被災者の方々、特に大切な方を亡くされた方々にとっての悲しみや悔しさは、20年の歳月を経ても消えることはないでしょう。天皇・皇后両陛下がご臨席の下、開催された20年追悼式典を、総理は欠席されました。中東諸国を訪問されるにしても、日程をやりくりし、式典に出席される選択肢はなかったのか。お答えください【問4】。 次に、昨年末の解散総選挙と、選挙制度改革について伺います。 昨年12月の総選挙は、まさに「大義なき解散」でした。私にとって8度目の総選挙でしたが、「この選挙に何の意味があるんですか?」と有権者に問われ続けたのは、初めての経験でした。「消費税と解散がどうして論理的につながるのか全く理解できない」。こう仰ったのは、壇上におられる町村信孝議長です。まさに正論です。総理、今回の選挙は、一体、誰のための、何のための選挙だったのか。お答え下さい【問5】。
昨年11月18日の消費増税延期・衆議院解散に関する記者会見で、総理は「税こそ民主主義」と言われました。しかし、史上最低の投票率によって、有権者の2人に1人が投票に行かず、6人のうち1人にしか投票されていない政党が、議席の大多数を占めてしまった現状こそ、「民主主義の危機」ではないでしょうか? 今回の史上最低の投票率に対する責任を、総理はどうお考えか。答弁を求めます【問6】。 今回の消費増税「延期」の判断は、わざわざ衆議院を解散しなくても、いわゆる景気弾力条項、税制抜本改革法の附則18条3項に基づいて粛々とできたはずです。
しかも1項には、こう書かれています。「望ましい経済成長率の在り方に近づけるための総合的な施策」を講じる、と。平成26年度の実質GDP成長率は、大きく下方修正を余儀なくされ、マイナス0.5%が見込まれています。あれだけ財政出動や金融緩和を行ったにもかかわらず、です。昨年4月の消費増税だけが原因ではありません。安倍政権は法律に基づき、予定通り増税できる環境を作れなかった責任、経済政策が間違っていたということを、率直に認めるべきです。
そもそも「トリクルダウン」は成り立たないのに、一部の大企業、株などの資産を持つ者だけを太らせて、普通のサラリーマン、年金生活者の生活をどんどん苦しめています。異次元の金融緩和が行き過ぎた円安をもたらし、賃金の上昇以上に物価の上昇を招き、実質賃金は連続17か月減少を続けています。年金は上がるどころか今年は2%減る。せっかく原油が安くなって一息つけるかと思ったら、物価の上昇が止まることを嫌がった日銀が追加緩和でさらに円安を進める。国民の生活をさらに苦しめるような施策をしておいて、何がデフレ脱却でしょうか?「この道しかない」ではなく、「この道は危ない」と、改めて申し上げます。 しかも、平成29年4月の10%への再引き上げは、どんな経済状況でも必ずやるとおっしゃっています。「経済は生き物」だからと、今回の増税を延期したのにも関わらず、3年後の経済がどうなっているかわからないのに必ず増税する。どう考えても支離滅裂、論理矛盾ではありませんか? 日銀の異次元緩和で事実上の財政ファイナンスの色彩がさらに強くなり、必ず消費税を上げると、ここで言っておかなければ、国債価格が下落、金利の上昇を招くと心配しての発言なのでしょうが、それだけ危ない橋を渡っているということを、自ら認識していることに他ならないではありませんか?
総理、①予定通り消費増税できなかったことについての法的責任【問7】、②景気弾力条項に従わなかった意味【問8】、③その一方で、景気弾力条項を削除しようとする意図【問9】、④3年後の経済状況に対する責任【問10】。以上4点について、それぞれ明確な答弁を求めます。 さらに、平成24年11月14日の党首討論において野田前総理、そして国民と「約束」した国会議員の定数削減・選挙制度改革はどうなったのでしょうか? 「約束」不履行のまま解散総選挙、そして国民には増税の負担を求める。自分の過去の発言に対する責任をどう考えているのか、そして定数削減・選挙制度改革はやるのかやらないのか。総理、明確にお答えください【問11】。 次に、平成26年度補正予算案について伺います。 今回の補正予算案は、同時期に作成した27年度当初予算案の規模を小さく見せるため、本来、毎年度の当初予算で要求・計上すべきものを補正予算にしています。港湾の競争力強化、6次産業化、中心市街地再生、捜査力の強化などが、どうして『緊急』経済対策と言えるのでしょうか? 今回の予算査定で「緊急性」「経済効果」をどう判断したのか、総理お答えください【問12】。 今回の目玉として、「地域消費喚起・生活支援型」と「地方創生先行型」という二つの交付金に4200億円が計上されています。とりわけ「地域消費喚起・生活支援型」交付金では、地域限定商品券の発行支援を意図しています。1999年の地域振興券では6000億円の予算に対し、個人消費増加は2025億円、2009年の定額給付金は2兆円の予算に対し、個人消費増加は6300億円。過去の類似事例では約3分の1の効果しか出なかったことが明らかになっています。政策効果が低く、しかも4200億円という規模でワンショット。これで地方創生につながると本気で考えておられるのでしょうか? まさに統一自治体選挙前の、バラマキの典型ではないですか? この予算の「政策目的」、想定される「経済効果」、その効果の「事後の検証方法」をそれぞれ示して下さい。そして、過去の事例で得られた教訓からどのような「工夫・改善」を行っているのか、それぞれ明確にお答えください【問13】。 また、エネルギー価格対策に3601億円が計上されていますが、去年の夏の価格から半分にまで原油価格が急落する中、もはや緊急性は低くなっているのではないですか?そもそも、異次元の金融緩和を行って過度の円安を引き起こし、輸入価格が上昇したからエネルギー価格対策を行うというのもマッチポンブですが、現段階においてもなお、この予算が必要だと考える理由をお答えください【問14】。 最後に、平成27年度当初予算案の国会提出は2月12日だと仄聞しています。耳を疑うのは、与党から年度内成立を期すという言葉が聞こえてくることです。解散総選挙があったから予算案の提出が遅れた、というのは政府・与党の都合ではありませんか? 無理筋の解散総選挙は、そもそも安倍総理の勝手です。96兆円を超える国家予算の審議は、通例通り、衆参でほぼ1か月ずつかけて、慎重に審議すべきです。それが、国民への責任です。ゆめゆめ、数を背景にした独善的、強行的な国会運営が行われることが無いよう、強く申し上げて私の質問を終わります。ありがとうございました。
[答弁]
○安倍内閣総理大臣 前原誠司議員にお答えをいたします。
ISILが拘束する他の日本人の有無及び邦人テロ事件への政府の対応についてお尋ねがありました。
ISILによる卑劣なテロは、言語道断の暴挙であり、強く非難します。湯川遥菜さんの御家族の御心痛は察するに余りあり、言葉もありません。現在、映像が公開された二人のほかに、人質となっている日本人の情報には接しておりません。
昨年八月及び十一月にそれぞれの行方不明事案の発生を把握した直後に、官邸に連絡室、外務省に対策室を立ち上げるとともに、ヨルダンにおいて現地対策本部を立ち上げ、あらゆるルートやチャンネルを通じて情報収集や協力要請を行ってまいりました。
今月二十日に湯川遥菜さん、後藤健二さんの両名が拘束された動画を確認した直後に、官邸に対策室、外務省に緊急対策本部を設置するとともに、中山外務副大臣をヨルダンに派遣し、両名の解放のため最大限の努力を尽くしてまいりました。極めて厳しい状況ではありますが、政府としては、後藤健二さんの早期解放に向けて全力を尽くしてまいります。 ISILと闘う周辺各国への支援を表明するリスクについてのお尋ねがありました。
中東地域の平和と安定は、我が国にとり、エネルギー安全保障や国際的な課題への貢献等の観点から極めて重要です。私の中東訪問の際に、一千万人以上の避難民の命をつなぐため、周辺国に対する人道支援を表明しましたが、これは、国際社会の一員として当然の責務を果たしたものであります。リスクを恐れる余りこのようなテロリストのおどかしに屈すると、周辺国への人道支援はおよそできなくなってしまいます。我が国は、決してテロに屈することはありません。今後とも、日本ならではの人道支援を積極的に実施してまいります。 テロ集団の意図についてお尋ねがありました。
そもそも、テロ集団の意図はどうあれ、彼らの行動については全く正当性がありません。その上で、彼らの意図の分析について、この場で申し上げることは適当ではないと考えます。 私の中東訪問と阪神・淡路大震災二十年追悼式典への出席の可能性についてお尋ねがありました。
中東地域の平和と安定は、我が国にとり、エネルギー安全保障や国際的な課題への貢献等の観点から極めて重要であります。私の先般の中東訪問については、かかる意義を踏まえ、あらゆる要素を総合的に検討した上で判断いたしました。
一方、御指摘の阪神・淡路大震災二十年追悼式典については、政府内で日程を調整した結果、十周年追悼式典のときと同様に、防災担当大臣が政府代表として出席いたしました。今後とも、関係自治体と連携しながら、被災地の復旧復興に全力で取り組んでまいります。 さきの総選挙の意義と投票率についてお尋ねがありました。
民主党政権時代、マニフェストに書いていない消費税の引き上げを国民に信を問うことなく実行しようとしたのに対し、私たち自民党は、税こそ民主主義であるとの考えから、法案の成立前に国民に信を問うべきだと主張いたしました。今回、私たちは、消費税について、政権交代した二〇一二年の選挙公約に掲げていない重要な政策変更を決定いたしました。そうならば、私たちは、従来からの主張どおり、毅然として国民に信を問う、これこそまさに民主主義の王道であります。
その機会に、解散に大義がないといった御批判も含め、国民は判断を下すことができます。誰に政権を委ねるかを選択できます。すべからく総選挙とは、国民のための、政権選択のための選挙であります。
しかし、そのためには、複数の具体的な選択肢が国民に提示されなければなりません。与党だけが具体策を提案し野党はただ批判するということでは、残念ながら、国民にとって選択肢があることにはなりません。その結末は国民の政治に対する無関心であり、それこそが民主主義の危機であります。
今回、低い投票率となったことは大変残念ではありましたが、国民の政治への関心を高めることに与党も野党もありません。単なる批判の応酬ではなく、具体的な政策の違いを国民の前で明らかにし、正々堂々の論戦を行う。ぜひ、民主党の皆さんとも建設的な議論をさせていただきたいと考えております。 消費税率引き上げ延期の判断に関し、四つのお尋ねがありました。
予定どおり消費税率引き上げを行える環境をつくれなかったことが税制抜本改革法附則第十八条第一項に違反するとの御指摘ですが、この規定は、デフレ脱却と経済活性化に向けた総合的な施策を講ずるよう義務づけるものであります。安倍政権においては、三本の矢の政策により経済の好循環が着実に生まれ始めており、御批判は当たりません。
他方で、昨年四月の消費税率八%への引き上げにより個人消費等に弱さが見られたことから、いわゆる景気判断条項に基づき、引き上げ延期の決断をいたしました。社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たすとともに、国の信認を確保するため、平成二十九年四月の一〇%への引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。そうした経済状況をつくり出すという決意のもと、三本の矢の政策をさらに前に進めてまいります。 選挙制度改革についてお尋ねがありました。
議員定数の削減などの選挙制度改革については、議会政治の根幹にかかわる重要な課題であり、各党各会派が真摯に議論を行い、早期に結論を得ることが重要であると考えています。
その際、大切なことは、御指摘の党首討論において述べたとおり、小さな政党にも配慮しながら議論が進められることであります。現在、議長のもとに設置された第三者機関、これは政権交代後実現したものでありますが、その第三者機関においてさまざまな議論が行われておりますが、私は、各党各会派がその答申に従うことが重要であると考えております。 経済対策と補正予算の計上事業についてのお尋ねがありました。
今般の経済対策は、地域の消費など経済の脆弱な部分に的を絞り、かつスピード感を持って対応を行うことで、個人消費のてこ入れと地方経済の底上げを図るものです。
このため、地域の実情に配慮しつつ消費を喚起する、仕事づくりなど地方が直面する構造的な課題への実効ある取り組みを通じて地方の活性化を促す、災害復旧等の緊急対応や復興を加速化するという三点に重点を置いて取りまとめています。
御指摘の事業は、今申し述べた、地方の活性化や緊急対応という点にかなうものであり、二十七年度予算の規模を小さく見せるため補正予算に計上したとの御指摘は当たりません。 地方向け交付金についてお尋ねがありました。
本交付金は、地方自治体が創意工夫で実施する消費喚起策や生活支援策及び仕事づくりなど構造的課題への対応策に対し、国が支援し、地方経済の活性化等を図るものであります。本施策については、過去の施策の検証を行い、効果的な取り組みとなるように工夫を凝らしました。
例えば、地域商品券については、これまでの類似施策の検証を踏まえ、補助額以上の消費が喚起されるよう、プレミアムつきの仕組みを推奨することとしました。
また、すぐれた取り組みには手厚い支援を行うこととしており、自治体が、より効果の大きい施策を考案するインセンティブを用意しています。
さらに、事業実施時に成果の客観的指標を明示した上で、結果も公表するといった厳格な効果検証を地方自治体に求めてまいります。 エネルギーコスト対策の必要性についてお尋ねがありました。
御指摘のとおり、足元の原油価格は下落しておりますが、電力料金は震災前に比べて産業用で約三割上昇しており、依然として高い水準にあります。
また、原油価格の下落が、資源開発投資の抑制等を通じて再びエネルギー需給が逼迫する可能性を十分に考慮する必要があります。喉元過ぎて熱さ忘れてはなりません。
政府としては、こうした事情を踏まえつつ、中小企業における省エネ投資の促進を初め、エネルギーコスト対策について、決して手綱を緩めることなく取り組んでまいります。