毎日新聞「政治プレミア・前原誠司の直球曲球」(2019年9月9日)より
「国民と立憲 連立視野に政権構想が必要」
先の参院選が低投票率だったのは、政治が「面白くない」からだ。れいわ新選組やNHKから国民を守る党が一定の支持を得たのも、有権者の関心をひきつける訴えをしたからだ。
逆に言えば、既存政党は与党も野党も積極的に応援したいと思わせるものがなかった。国民民主党は比例代表での獲得議席数が3だったことは深刻に受け止めるべきだ。立憲民主党も2017年衆院選の勢いが続かなくなっている。
■統一会派は「半歩前進」
これらのこともあって「政党の合従連衡にはくみしない」と言っていた立憲の枝野幸男代表が統一会派を呼びかけたのだと思う。対等な形で衆参両院で統一会派を結成することは半歩前進だ。
しかし、ただ一緒になるだけでは、有権者からは旧民主党や旧民進党への先祖返りとみられる。考え方が合わなかったから分裂したのに、一緒になって何をするのかと思われる。支持率が上がらず、状況が厳しくなってきたので選挙互助会なのか、とみられかねない。
有権者は、我々が何を共通の目標とするかの説明を求めている。また、いずれ一つの党になるのか、それとも統一会派のままで衆院選は別々に戦うのか、大きな方向性を示すことも必要だ。
■両党の支持率が下がることも
もちろん、統一会派にはさまざまなプラス面がある。国会論戦でもしっかり時間を取って、より戦略性を持った質疑が可能になる。
しかし、そうした利点以前に何のためにやるのか、違いは克服できるのか、ということを示さなければ、立憲も国民民主もともに支持率が下がることにもなりかねない。
■解決策を示せるか
選挙戦ではよく「批判だけではだめだ」と言われた。安倍政権には国民も不満がある。アベノミクスは格差を広げ、個人消費は落ち込み、潜在成長率も低下している。さらに巨額の財政赤字を抱え、国債の利払いと社会保障費だけが増大し、戦略的な投資もできない。
こうした全体の状況に対して、野党が批判だけではなく解決策を示せるかが問われている。統一会派を作る以上は少なくとも連立政権が前提になる。違う政党であっても、政権交代を実現するグランドデザインを描き、共通の政策と政権構想を示す必要がある。
■保守の路線は守る
一方で、立憲と国民民主には相違点もある。
格差拡大と将来不安、財政赤字の拡大という構造問題をどう解決するかという内政課題では共通の政策ができる。一方で、憲法改正については私は逃げずに議論すべきだと思う。
8月20日付の産経新聞朝刊に京都大学名誉教授の佐伯啓思氏が「戦後74年、矜持(きょうじ)を失った保守」という寄稿をしていた。「カネをばらまいて株価を上げ、訪日外国人がいくらカネを落としてくれたと喜び、日米関係の強化で平和を守れればよいという『現実』をそのまま擁護も賛美もするわけにはいかないのが『保守』であろう」とあった。
その意味で国民民主は、内政は再分配を手厚くし、外交・安全保障政策は現実路線という保守の路線を守っていくことが大事だと思う。
■「野党連携」と「野党共闘」は違う
共産党やれいわとの関係でいえば、今回の統一会派のような「野党連携」と、もっと幅広い「野党共闘」は峻別(しゅんべつ)したほうがいい。
立憲とは統一会派を組み、共通政策や将来的な連立構想をやっていく。共産党やれいわとは考え方は違うが、敵は自公政権なので国会や選挙で協力する。
現在は野党共闘の枠に入っていない日本維新の会とも話をすべきだ。維新は自民党の補完勢力のように見られているが、大阪では自民党から共産党まで束になっても維新に負けている。関西で見えている風景は東京とは異なる。政策にすべて賛同できるわけではないが、議論はすべきだ。
もし枝野氏がその気にならないのならば、国民民主の玉木雄一郎代表が話をする、というようなことがあってもいい。
■れいわの政策とは相いれない
れいわの伸長の要因の一つはやはり消費税廃止を掲げたことだと思う。今夏に初盆のあいさつ回りで訪れたお寺で小学生から「なぜ消費税は廃止できないんですか」と聞かれた。日本人は本当に消費税が嫌いなのだなと思うと同時に、小学生にまでれいわの主張が浸透しているのかと驚いた。
貧困層は確実に増えている。現状に不満を持っている人たちに、れいわの山本太郎代表の訴えは心に響いたのだろう。
しかし、消費税分は所得税や法人税増税でまかなうと言っているが、国際競争力を考えた時にはどうだろうか。また私の考えは「みんなで負担してみんなで支え合う」ということだ。
やはり何らかの負担をしてもらうことは必要だ。山本太郎というキャラクターは魅力的で好きだけれども、政策としては相いれないものがある。
<出典:毎日新聞「政治プレミア」http://mainichi.jp/premier/politics/>