毎日新聞「政治プレミア・前原誠司の直球曲球」(2019年4月24日)より
アベノミクスは目くらまし 国民生活は良くなっていない
アベノミクスの「三本の⽮」の1本⽬の⾦融緩和は資産価値を上げる政策だ。国債を買うので国債の価値は上がる。⾦利を下げるので円安になり、株価も上がる。株価が上がるから、企業ももうかる。第2次安倍内閣は2012年12⽉26⽇に発⾜した。12年10〜12⽉期と18年10〜12⽉期を⽐べると企業の経常利益は1.7倍になっている。ところが、同じ時期に内部留保も1.6倍になっている。⼀⽅で⼈件費は1.06倍にしかなっていない。その結果、12年12⽉を100とすると、実質賃⾦(消費増税による物価上昇の影響を含まない)はずっと100を下回っている。
■国⺠から企業に富が移転
これでは⼀般の国⺠の⽣活が良くなるはずがない。衆院予算委員会での質問でも指摘した。⾦融緩和で円安になり株⾼になり、企業の利潤が増え、株保有者の含み益も増える。しかし円安のため輸⼊物価が上昇して実質賃⾦が減少した。つまり、アベノミクスは富を国⺠から企業に移転して所得格差を拡⼤させる政策だ。別の側⾯から⾒ても、⾦利が低くて⼀番助かっているのは1000兆円を超える借⾦がある国だ。⼀⽅で1850兆円ある個⼈資産には利息がほとんどつかない。これも実質的に個⼈から国に所得が移転していることを意味する。
■⽇本の構造的問題は解決していない
実質賃⾦が上がらないから消費も伸びず、結婚もできず、あるいは結婚しても希望する⼦どもの数を持てない。⽇本の構造的な問題は何も解決していない。株価が⾼いことにまどわされてはいけない。今まで、⽬くらましにあっていた。
■経済数値が良くても国⺠が豊かとは限らない
⾸相や⿇⽣太郎副総理兼財務相は景気がいい、景気拡⼤局⾯が戦後最⻑だと⾔う。アベノミクスは資産を持っている⼈には恩恵をもたらした。⾸相や⿇⽣⽒は、恩恵を受けている「資産を持っている⼈」に含まれる。しかし、多くの普通の国⺠の⽣活は全く良くなっていない。
【アベノミクスの検証〜国⺠から企業への富の移転=前原誠司事務所提供】
確かにデフレは良くない。しかし、経済の指標が良くなれば、あるいはデフレから脱却できれば、それだけで国⺠が豊かになるとは限らない。「数値」を追い求めるあまり、国⺠の⽣活、あるいは財政や⼈⼝減少などの⽇本の根本問題に対処することにアベノミクスが失敗したことは明らかだ。今回の統計不正問題でも結局は、株価や物価やあるいは雇⽤者数、失業率、数字を良くしたいという安倍⾸相の強い思いが、忖度(そんたく)も含めて不正を起こしたのだろう。
国⺠もアベノミクスの「⽬くらまし」に気がつきはじめている。
<出典:毎日新聞「政治プレミア」http://mainichi.jp/premier/politics/>