毎日新聞「政治プレミア・前原誠司の直球曲球」(2019年3月8日)より
政治には思わぬことがある。強い野党が必要だ。
⾃由党の⼩沢⼀郎代表は、野党第1党の⽴憲⺠主党が先頭に⽴って野党をまとめ、⾃⺠党政権に対峙(たいじ)すべきだという考えだ。⼀⽅で、⽴憲の枝野幸男代表は今は国⺠⺠主党をライバル視している。野党同⼠の準決勝に勝ち、⾃⺠党との決勝戦はその後だ、と思っているのではないか。⼩沢さんは国会議員になって50年だ。⼩沢さんが次の総選挙で政権を奪取するという強い思いを持っているのは容易に想像できる。その点で⼩沢さんと枝野さんには⾷い違いがある。
無所属の会に所属していた議員の多くが⽴憲の会派に加⼊した。野党勢⼒を⽴憲に集約する枝野さんの考えに向けて⼀歩進んだように⾒える。これに対して⼩沢さんは野党勢⼒は⼤同団結すべきだ、という考えから国⺠⺠主との連携強化に踏みこんだのだと思う。
■国⺠⺠主の基盤は強い
私が⼩沢さんと初めて1対1で会ったのは2005年衆院選、いわゆる郵政選挙の解散前だった。その時、私は「憲法解釈の変更も含めて、集団的⾃衛権の⾏使を⼀部容認すべきだ」という議論をしていた。そのことについて⼩沢さんは「前原政権ができてからやればいいじゃないか。党をまとめるためには、今はあまり⾔わないほうがいい」とおっしゃった。まさにこれが⼩沢さんの政治に対する考え⽅だ。まず⾃⺠党を倒して権⼒を取らなければ何もできない。⾃⺠党を倒すためには野党がまとまる必要がある。そのためには政策は最⼤公約数でまとめる。
ただし、⼩沢さんと国⺠⺠主の考えは全く同じではない。⼩沢さんは「いくらでも股の下をくぐる」と⾔っているが、国⺠⺠主にはそれをよしとしない⼈間もいる。⼩選挙区に強い議員もある程度いる。コアな固まりがあり、どのような状況にも対応できる基礎体⼒がある。⽴憲は国⺠⺠主を解党させ、吸収しようともくろんでいるのかもしれないが、そうはいかない。
■予定通りには動かない政治
⽴憲の幹部はやや⻑い期間を⾒据え、オーソドックスに政権を取ることを考えているのだろう。しかし、世界経済の先⾏きは不透明で、時代が⼤きく変わる可能性はある。その時は新しい勢⼒が台頭するかもしれないし、⽴憲が決勝戦の相⼿と考えている⾃⺠党⾃体も変わっているかもしれない。政治が思い通りに動くとはかぎらない。
また衆院選になれば⾃⺠党と⼩選挙区で対決することになる。⽴憲にとって⼩選挙区での組織作りや候補擁⽴はそれほど簡単ではないだろう。解散時期は政権が決めることで、野党を待ってはくれない。
総合的に勘案すれば「敵の敵は味⽅」という考えでお互いが判断するべきだ。⾃社さ政権の時は私は当選1回⽣だったが、当時の政界にもまさか⾃⺠党が社会党と組むはずはないという固定観念があった。政治はいつもオーソドックスに動くわけではない。あまりしゃくし定規にやっていると時代の⼤きな変化に取り残されることにもなりかねない。
国⺠⺠主と⽴憲は、国⺠負担率を上げてでも再分配を厚くするという内政の基本は全く同じだ。ならばそこは⼤きな気持ちでお互いが乗り越えていかなければならない。
■野⽥前⾸相の役割は⼤きい
野⽥佳彦前⾸相が⽴憲の会派に参加せず「社会保障を⽴て直す国⺠会議」という新しい会派を作った事については、僭越(せんえつ)ながら、さすが野⽥さんだという思いを新たにした。野⽥前⾸相のレガシー(政治的遺産)は社会保障と税の⼀体改⾰だ。その道筋を進めていくために、消費増税反対を掲げる⽴憲の会派に⼊るのではなく、⾃ら会派を作った。⼈数は少なくとも、お互いの⽴場を尊重した形で野党をまとめようという思いを持つ会派があることは、野党再編においてもこれから極めて⼤きな意味を持ってくるだろう。
<出典:毎日新聞「政治プレミア」http://mainichi.jp/premier/politics/>