毎日新聞「政治プレミア・前原誠司の直球曲球」(2018年6月13日)より
「政権交代には『リベラル右派』が必要だ」
■希望との合流なければ民進は生き残れなかった
この5年間の民主党、民進党は浮上するきっかけをつかめず、共産党との協力に走り、内部対立が先鋭化して割れてしまった。これをもう一度、糾合していけるのかどうかが、大きなポイントだ。
私は当事者だったので、いろいろ考える。もし、私が小池百合子東京都知事の希望の党と民進党との合流を決めなければ、おそらく野党第1党は希望の党になっていた。つまり基本的には民進党が関わっていない政党が野党第1党になっていた。
その場合は、より保守的な党が第1党で、それに続くのが数を減らした民進党ということになる。その時、希望の党と民進党が協力することはできるだろうか。民進党は政治的により影響力の小さい勢力になっていたのではないか。
■新たな社会モデルを示すのが野党
今の社会は行き詰まりの状況にある。そうしたなかで、野党の役割を突き詰めると、結局は自公政権の社会モデルに代わるものを出せるのかにある。
バブルが崩壊して以降は低成長が続き、賃金が下がる。安倍政権の5年間という、世界経済が非常に好調な時期に財政出動と金融緩和というカンフル剤を打って、それでも年平均成長率は1.4%ぐらいだ。
物価を上げる政策をやっているので、実質賃金と実質可処分所得は伸びない。いくら頑張っても限界がある。成長を前提とした自公の社会モデルは成り立たないところに来ている。
■内政では旧民進系は一致できる
グローバル化が進むなかでは、今後も賃金の上昇は見込めないだろう。これでは若者は結婚したくてもできないし、欲しいだけの子どもを持つという希望もかなえられない。お年寄りも年金は下がるし、どうやって暮らしていくかという不安におびえている。
だから野党が新たな選択肢を示しうるかが問題になる。そして、旧民進党のグループ、立憲民主党、国民民主党、無所属の会は、その点では基本的に考え方が一致している。
■中福祉・中負担の社会モデル
旧民進系の野党が一致している考え方は、「成長を前提とした自己責任型の小さな政府」ではなくて、私の言葉で言えば「ALL FOR ALL」、立憲の枝野幸男代表の言葉でいえば「お互い様の支え合い」という中福祉・中負担の社会モデルだ。
どの野党とどの野党が組むか、という形から入るのではなくて、みんなでみんなを支える社会モデルを我々が示す。政権と違う社会モデルを示して、実現できるということを見せなければ、野党の存在意義はない。
■立憲と国民民主は合流する必要はない
そのうえで、私は立憲と国民民主が無理をして一緒になる必要はないと思っている。立憲は「リベラル左派」、国民民主は「リベラル右派」で、それぞれの支持者を開拓し、切磋琢磨(せっさたくま)する。そして国政選挙の時は自民党を倒すために協力する。
お互いが別々の支持者を開拓していく。例えば参院選では、定数1や2の選挙区では協力する。定数3以上、また、比例では切磋琢磨する。衆院小選挙区では同じ選挙区でぶつからないよう調整する。自公を過半数割れに追い込んだら、政策協定を結んで連立を組む。
連立の柱は「中福祉・中負担」の社会モデルでいい。外交安保での食い違いについては、民主党政権の時もそうだったが、左派も政権についたらトーンダウンした。それほど心配する必要はない。
■消費税率引き上げが必要
ただし、中福祉・中負担の社会モデルでは、財源が問題になる。具体的には消費税率の引き上げが必要になる。そこを逃げずに言えるかどうかというところが今後の大きなポイントになる。
もし立憲が消費税率の引き上げについては否定的になるならば、国民民主は、財源に責任を持つ野党ということで地歩を固めるべきだと考えている。
財源論から逃げず、その代わり国民の不安を解消する政策パッケージを出すというのが解決策だ。
■保守を取らねば政権は取れぬ
無所属の会の岡田克也前副総理のように本気で野党結集の接着剤になろうとしている人はいる。しかし、現実には立憲が動かない。安易な合従連衡には乗れないという枝野氏の考えはよくわかる。
先の衆院選で立憲の比例票と希望の党の比例票を合計すると自民党の比例票を上回る。希望の党に入れたのは、保守的だが自民党には投票したくないという有権者だ。そうした層は確実に存在する。
だからリベラルの右派と左派で支持層をすみ分け、お互いに市場を開拓する。
保守を排除していたら政権は絶対に取れない。リベラル右派はどちらでもなく中途半端だと批判する人もいるが、一番真ん中で一番大きいマーケットだ。ここをどう取るかが政権交代をするためのカギになる。
<出典:毎日新聞「政治プレミア」http://mainichi.jp/premier/politics/>