毎日新聞「政治プレミア・前原誠司の直球曲球」(2020年5⽉25⽇)より
■「永久劣後ローン」で借⾦を資本に変える
新型コロナウイルスの感染拡⼤によって需要が消失した。公共交通機関を使わず、旅館やホテルに宿泊せず、飲⾷店には⾏かない。経済の⼤事なところで、まったく売り上げがない状況が起きた。
政府は国⺠1⼈あたりに⼀律10万円を配り、中堅・中⼩企業に最⼤200万円を⼿当てする持続化給付⾦でこの⽳埋めをはかっている。そのうえでさまざまな融資制度をやっている。
現在の出⾎を⽌めるために⽳埋めは必要だ。しかし融資は無利⼦無担保であっても返済しなければならない。需要が消失したなかでは借⾦はいつまでも根雪のように残り続ける。これが今後の経済の⼤きな⾜かせになることは間違いない。
借⾦を別の形に変えていかなければならない。私が現在考えているのは「永久劣後ローン」の導⼊だ。返済の優先順位が低い債権を設定し、利⼦を払っていれば元本を返済しなくてよい。債権は最終的に政府や⽇銀が出資する機構が買い上げることにすれば、事実上、企業に資本を注⼊することになる。「借⾦を資本に変える」⼿法だ。
⼀⽅でマクロ経済のマネジメントも忘れてはならない。この状況では国債を発⾏してでも出⾎を⽌めなければならないというのは確かだが、同時に通貨の信認に対する⽬配りも必要だ。
だから国債を発⾏して⽳埋めするだけではなく、永久劣後ローンのような、何⼗年かかっても利息として返してもらうという取り組みをすることに意味がある。財政健全化と前向きな企業活動が両⽴する仕組みを⼀つでも⼊れることが⼤切だ。
■まるで平時のような政府対応
政府の対応は遅すぎる。休業している飲⾷店、ホテル、旅館などは、⼀⽇⼀⽇が勝負だ。塗炭の苦しみをなめている。それなのにコロナ対策が盛り込まれていない2020年度の本予算が3⽉末に成⽴してから、コロナ対策が盛り込まれた補正予算が成⽴するまで約1カ⽉かかった。
緊急事態宣⾔が発令され、4⽉から急激に経済が落ち込んだ。緊急事態宣⾔によって⼈の動きを遮断したことは感染拡⼤防⽌のために必要なことだが、本来ならば休業要請と補償はセットであるべきだ。国がその責任を放棄したため、地⽅自治体の財政⼒の違いによって対応に格差が⽣じている。
具体的な対応は地⽅にまかせるとしても、本予算を修正し、政府が⼀括交付⾦のようなものを出して⼿当てをすべきだった。⼀律10万円の給付にしても、本予算を修正して盛り込んでおけば、国⺠の⼿元に届く時期はもっと早くなったはずだ。
まして家賃補助については与党がプロジェクトチームを作ったが、あまりにも遅い。与野党で協議して法案を1、2⽇で通し、当初は予備費を使ってでもやれば、ずっと早く始められたはずだ。困窮学⽣に対する⽀援も、アルバイトがばったり無くなったのは4⽉からだということを考えれば、いかにも対応が遅い。
危機管理の体制ではなく平時と同じ事をやっている。家賃も困窮学⽣も今、困っているという切実な思いを政府は受け⽌められていないのではないか。
10万円の⼀律給付ももう⼀度やることを検討すべきだ。また10万円の⼀律給付が全国⺠に届くことを前提にしたうえで、低所得者層に絞った給付をさらに⾏うことも考えるべきだ。
■「コロナ後」の戦略も必要
私の地元の京都はコロナ以前は過剰な観光客による「オーバーツーリズム」が問題になっていたが、まったく⼈が歩いていない状態になった。観光地のお⼟産屋さんでもゴールデンウイークにシャッターが下りたままだった。京都で⽣まれ育ってきたが、こんな京都は⾒たことがない。
今はコロナとの闘いだ。感染拡⼤を防⽌するためには⾃粛は当然だ。今後はワクチンの開発状況などもふまえながら状況を⾒て経済活動を再開していくことになるが、完全に戻すためには数年はかかると思う。しかし観光⽴国という旗を振ってきたものとしては、また新たに多くの観光客が来てもらえるようにしていきたいし、観光が⽇本経済の⼤きな柱になるように取り組んでいきたい。
緊急事態宣⾔が解除され、都道府県のなかでの経済活動を再開させることが第⼀歩になる。すぐに県をまたいで観光に来てもらうということには、なかなかなりにくい。しかし、徐々に⽇常を取り戻すために、たとえば現在は閉めている神社仏閣でも⾨は開けてもらう。近所の⽅はお越しくださいというところからスタートして段階的にやっていくしかない。
我々の⽣活も変えていかなければならない。テレワークが増えれば出張も減る。公共交通機関を使う⼈も減る。⼈⼝が減り、働き⽅も変わっていくなかでは違った局⾯になる。公共交通機関という⼤事なインフラを守るためにも「コロナ後」の戦略を考えていくことも⼤事な視点だ。
<出典:毎日新聞「政治プレミア」http://mainichi.jp/premier/politics/>