安倍総理が、憲法改正を言い始めました。確かに、1回目に総理になった時や、民主党政権時、野党の代表として憲法改正に言及していましたが、昨年、安保法制が成立した直後は、「これでしばらくは安全保障の議論は必要ない。憲法改正ではなく、経済に集中する」と周辺には話をしていたといいます。しかし、去年の11月の下旬、大阪市長を退任した橋下徹氏や松井一郎・大阪府知事と会談をしてから、「憲法改正が参議院選挙の争点だ」と言いはじめました。谷垣禎一・自民党幹事長には事前の相談もなかったようです。また、連立のパートナーである山口那津男・公明党代表にも事前の相談はなかったようで、むしろ不快感を表明しています。
私は、憲法改正は必要だと思います。そして民主党も、2005年10月にまとめた「憲法提言」に書かれているように、憲法の三つの基本原則「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」は守りながら、時代に合った未来志向の憲法を創造していくべきだとして、幾つもの改正、或いは付加するポイントを掲げています。私たちは日本国憲法を、大日本帝国憲法に書かれているような「不磨の大典」とは、見做していないのです。
では何故、安倍総理の憲法改正発言に違和感、いやむしろ嫌悪感を覚えるのでしょうか?
それは、「何としても憲法改正を成し遂げたい」という熱情からではなく、大阪維新を引き付けておき、野党分断を図るための政局的な発言だと、見透かされているからです。「新・三本の矢」で「出生率1.8」や「介護離職者ゼロ」を打ち出したのも、或いは、「同一労働同一賃金」を言い出したのも、野党の主張を取り入れてでも実現したいというよりは、参議院選挙の争点を消しておきたいという、姑息な手段としか感じられません。
本当に憲法改正をやりたいなら、まずは与党内で憲法改正を進める旨のコンセンサスを取り付け、そして、野党の党首一人一人と会って、「国民的な議論を深めたい。選挙の争点としてではなく、まずは各党で1年ほど議論をしてもらい、続いて衆参両院の憲法調査会に各党の意見を持ち寄り、しっかりと議論した後に、憲法改正草案を取りまとめ、自分としては衆参両院で3分の2以上の賛同を得る案を取りまとめ、国民投票で国民に信を問い、何としても憲法を改正したい」と王道を歩むべきではないでしょうか。
私は、有事法制と国民保護法制を作る際、民主党の責任者でした。自民党の責任者は久間章生代議士。自公連立政権ではありましたが、久間先生と私は、何度も修正ポイントについて意見を交わしました。当時の自公政権には、有事法制のような法律は、出来るだけ多くの政党が賛成して作られるべきだとの大局観がありました。そして、野党第一党である民主党の意見を、出来るだけ受け入れようとの度量もありました。我々も、後世の歴史の評価に耐えるためには生半可な修正案は出せないと考え、現職の陸海空自衛官の協力も得ながら、現実に起こりうるシナリオを徹底的に洗い出し、現実的ではあるが政府案には足りない論点を踏まえた修正案をまとめました。有事法制や国民保護法制は、衆参共に約9割の国会議員が賛成する修正案が成立しました。安倍総理には、憲法改正というのであれば、政局ではなく大局に立って、堂々と進めてもらいたいと思います。
私が憲法改正で特にこだわりたいのは、以下のポイントです。
①前文
日本国憲法前文の第2パラグラフには、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と書かれています。核実験を繰り返したり、力による主権の拡大を図ろうとする国やテロ集団が散見される今、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」というのはあまりにも現実離れし、理想主義に過ぎないかと思います。
②第9条
日本国憲法第9条第1項には、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とあります。そして第2項には、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と書かれていますが、これは自衛隊、またその前身の警察予備隊すらなかったときの記述です。GHQが冷戦の激化により「日本の再軍備阻止」という方針を転換し、現実に自衛隊が存在し、国民に広くその必要性を認められるようになった今、少なくとも第2項は「読んで字のごとく」に見直すべきではないかと思います。なお、私は第9条第2項の見直しによって、新たな役割を自衛隊に与えるべきだとは考えておりませんし、現行憲法の「平和主義」の理念は、これからも尊重され続けるべきだと思います。
③緊急事態対応
有事法制の審議の最中、日本共産党は「憲法に緊急事態の規定がないのに、なぜ有事法制を作ることができるのか。有事法制自体、憲法違反ではないか」との論陣を張りました。確かに傾聴に値するものがありました。実際、日本国憲法で「緊急」という文字を探すと、憲法54条の「衆議院が解散されているときの参議院が緊急集会を開くことができる」という条文があるのみです。他国の憲法では一般的に見受けられる「非常事態宣言発令下における私権の制限」など、日本国憲法には概念すらありません。やはり憲法には、平時と有事における国民の権利と義務に違いを持たせるべきだと思います。
他の論点としては、「ねじれ」をなくすための1院制、統治機構改革、首相公選制、そして改正手続きを定めた96条見直しの議論もあります。いずれにしても、議論のポイントを国民に周知徹底し、王道を歩む憲法改正議論の高まりが求められます。